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2005/10/02

岩にしみ入る蝉の声って?

 ぼくには恩師というか、いろんな意味を込めての先生という方がいる。その先生が「解釈と鑑賞」にお書きになられた原稿を、わざわざコピーして送ってくださった。芭蕉の、

 閑かさや岩にしみ入る蝉の声

 という句をめぐっての考察。斎藤茂吉の和歌論についての特集に寄せてのものらしい。

 で、この句の解釈をめぐっての論戦として有名なのは、やはり茂吉「アブラゼミ説」VS小宮豊隆「ニイニイゼミ説」だろう。茂吉アブラゼミ説は「たくさんのアブラゼミが太い声で鳴くなかでの静寂感」を主張、小宮ニイニイゼミ説は「ニイニイゼミが一、二匹、かぼそく鳴いてしみじみとしている」といったもの。

 小宮さんは仙台に住んでいたので、この句の舞台となった立石寺あたりについて詳しかったのかもしれない。芭蕉が立石寺に訪れた頃に、アブラゼミが鳴いてなかっただろうとも主張している。

 結局、この論争は実地調査をした茂吉がアブラゼミ説を撤回ということになっている。

 だけども。

 先生は茂吉説にもうちっと付き合いましょう、と。ニイニイゼミ説は自然科学的に妥当だけれども、

「しかしそれが、文学という<作品>のイメージを解析するための十分条件となり得ないことは言うまでもない。現実に起こり得なくても肯定される余地があってこそ文学の価値も保証される」

 と述べられてます。そして、蝉の喧騒への気づきから、喧騒と対置されることによって得られる真の静寂について、またはその瞬間の気持ちの深まりについて、論が続きます。もちろん、この句の典拠である王籍の、

 蝉噪(さわ)ぎて 林逾(いよいよ)静かなり

 などなどを挙げながら。

 みなさんはどうですかね。アブラゼミかニイニイゼミか。ぼくはやはりアブラゼミがわんわん鳴くなかで、ハッと静寂に気づいた一瞬が一句に封じ込められているといったほうを、いっちゃん最初にイメージしちゃいましたけれど。


 ******

 そういえば、先生やちなくまさんたちと、大学院合宿で立石寺へ行ったのはいつのことだったろうか。けっこうむかしの話だからなあ。あの夏はすばらしかった。

 夏を惜しみながら、夏の夕暮れ。
117-1768_IMG1

 それから、この立石寺は慈覚大師による開基。でもって、その慈覚大師とは平安時代の天台宗僧侶円仁のことであって、松島の瑞巌寺や平泉の中尊寺なども開いたとされる人でもあったりして、なんとぼくの暮らす岩舟町で生まれたという説があるのだ。やや離れた壬生町も生誕の地を主張しているのですがね。

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コメント

アブラゼミに一票!!
というか、大学で勉強するまでニイニイゼミを知らなかったし…。(ToT)
両親の実家のある富山で、うだるような暑さの中、アブラゼミが大合唱で暑さ倍増。
そんな大合唱も一瞬ピタッと止むことがあって、セミの声以外の音、全ての音が聞こえないような静寂が訪れることがあって。
そんな感じかなと思ってました。はい。

投稿: ちなくま | 2005/10/03 23:46

 育った場所などの地域性や、思い出深さなどの違いが、句の解釈上深く関わっているんだろうね。。

 たしか立石寺に行ったとき、先生が、
「なんの蝉が鳴いてる?」
 と訊かれたんだけれど、なんて答えたのか覚えていないのだ。石段で疲れていたのだろうか。それとも、鳴いていなかったんだっけ? 記憶が曖昧で……。

投稿: セキグチ | 2005/10/04 00:39

 唐突ですが、よく三葉虫の化石ってあるでしょ。あれのセミバージョンを想像してみると……蝉が岩に「しみいった」感じがしない?
 つまり、上の句と中の句を「声」にかかる修飾語じゃなくて、「蝉」にかかる修飾語と捉えることはできないだろーか? そうすると、静けさの中で太古の時代に響いた音を想像するような気持ちになることもできるのではなかろーか?
 てなわけで、タケウチ晩「化石セミ説」でした。

投稿: タケウチ | 2005/10/04 18:55

 化石説まではちょっとわからないんですけれど、やっぱり蝉の声がしみ入っていくのが、岩という長い長い年月をその背景にイメージさせるものであることから、去年の夏の蝉の声、そのまた前の年の蝉の声、それからそれから――と、はるかむかしの夏の音へと思いを馳せさせる句となっているとは思いますね。

 同行の曾良の『俳諧書留』には、

 山寺や石にしみつく蝉の声

 という初案があるそうなんですが、「しみつく」という年月の募り方を思わせる言葉よりも、「しみ入る」という言葉のほうが、より遠くて深い来し方を思わせるような気がします。。

投稿: セキグチ | 2005/10/05 01:54

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